JC-STAR対応の実務IoT機器セキュリティ検証の現在地と製造業が取るべき行動

このコラムを読んでわかること

  • JC-STAR制度の全体像
  • ★1〜★4の4段階評価レベルの違い、自己適合宣言と第三者評価の使い分け、公開状況
  • ファジングの仕組みと★3/★4審査における技術検証としての役割
  • IoT機器セキュリティ検証を支援するツール・サービスの活用方法

1. 背景:なぜ今、JC-STARが重要なのか

IoT機器のサイバーセキュリティをめぐる法的・制度的な要求は、2024〜2025年を境に急速に具体化しつつあります。経済産業省が2024年8月に公表した「IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度構築方針 」に基づき構築された「JC-STAR(Labeling Scheme based on Japan Cyber-Security Technical Assessment Requirements)」は、日本国内の製造業にとってもはや「任意の認証取得」ではなく、市場への参入条件そのものになりつつあります。

これまで、IoT製品のセキュリティ対策では、ベンダー側は調達者・消費者にアピールしにくく、調達者側は製品のセキュリティ対策が適切かどうかを判断できないという構造的な課題がありました。政府機関・企業でのサプライチェーン・リスク管理が広がる中、本来自組織が実施すべき製品のセキュリティ確認プロセスを、選定・調達時に行うことが難しいという現状もあります。JC-STARは、これらの課題を解決するための共通の物差しとして機能します。

「セキュリティは製品出荷後に対処する問題ではなく、
設計段階から組み込むべき品質要件である」

欧州CRAとの並行対応

欧州ではCyber Resilience Act(CRA)が2024年に成立し、2027年以降は適合性評価なしにIoT製品をEU市場に投入できなくなります。JC-STARはETSI EN 303 645やNISTIR 8425等の国際規格とも調和しており、両制度を並行して把握しておくことで、国内外市場への効率的な対応が可能になります。

2. 制度概要:JC-STAR 制度の全体像

JC-STARは、インターネットとの通信が行える幅広いIoT製品を対象として、共通的な物差しで製品のセキュリティ機能を評価・可視化することを目的とした制度です。適合が認められた製品には、二次元バーコード付きの適合ラベルが付与されます。このラベルにより、調達者・消費者が製品の詳細・適合評価・セキュリティ情報等を簡単に取得できる仕組みになっています。

レベル評価方式主な対象備考
★1(レベル1)自己適合宣言(IPA 付与)全 IoT 製品共通最低限のセキュリティ要件。低コスト・短期間で取得可能
★2(レベル2)自己適合宣言(IPA 付与)予定製品類型ごとの基本要件(策定中)適合基準・評価ガイドは未公開。ワーキンググループで検討中(2026年7月時点)
★3(レベル3)第三者評価機関による認証(IPA 付与)政府機関・重要インフラ向け製品★1★2に加え汎用的セキュリティ要件。高い信頼性を確保
★4(レベル4)第三者評価機関による認証(IPA 付与)政府機関・重要インフラ向け製品(高度)最高水準の評価。独立した第三者評価機関が評価報告書を作成

各レベルの要件公開状況(2026年7月時点)

★1(レベル1):2025年3月に運用開始。全IoT製品共通の最低限要件として適合基準・評価ガイドが公開済みです。自己適合宣言による方式でIPAが適合ラベルを付与します。 ★2(レベル2):現時点では正式な適合基準・評価ガイドは未公開です。スマートホーム関連機器等を含むワーキンググループで検討が進められている段階です。 ★3(レベル3):政府調達での早期活用を優先して先行策定。2026年2月に基準案を公開(6月正式公開予定)。対象分野は「通信機器」と「ネットワークカメラ」です。 ★4(レベル4):詳細は今後の策定を待つ段階です。

★3が★2より先に公開された理由

政府調達(中央省庁等の機器選定)で早期に活用する方針があるため、より高い信頼性が求められる「通信機器」および「ネットワークカメラ」の★3(第三者認証)の基準策定が優先的に進められました。★2については★3と並行、あるいはスマートホーム関連機器等の分野を含めてワーキンググループで検討中です。

3. 要件:技術要件の骨格―何が求められるか

JC-STARの技術要件は、ETSI EN 303 645(コンシューマ向けIoT機器のサイバーセキュリティ要件)やNISTIR 8425等の国内外規格と調和しつつ、独自に定める適合基準に基づいて設計されています。★1は2025年3月に運用開始済みで全製品共通の最低限要件が公開されています。★3は「通信機器」「ネットワークカメラ」を対象に2026年2月に基準案が公開されました。★2は現在ワーキンググループで策定中であり、正式公開は今後を待つ状況です。下表は、公開情報をもとに整理した要件カテゴリーの例示です。詳細は、IPA公式文書をご参照ください。

要件カテゴリ具体的な要求事項(例)主な対象レベル
デフォルト認証情報汎用デフォルトパスワードの禁止、初期パスワードのユーザー変更強制★1以上
脆弱性開示ポリシーセキュリティ脆弱性の報告受付窓口の公開・対応プロセスの整備★1以上
ソフトウェア更新セキュリティアップデートの提供・配布機能、更新の完全性検証(署名検証等)★1以上
認証情報の保護ハードコード認証情報の禁止、セキュアストレージの利用★1以上
通信の保護TLS等による通信暗号化、証明書検証の実施★2以上
攻撃面の最小化不要なサービス・ポートの無効化、最小権限原則の適用★1以上
セキュアブート起動時のファームウェア完全性検証★2以上
個人データ保護収集データの最小化、利用目的の明示★2以上
SBOM使用するOSS・サードパーティコンポーネントの管理・開示★3以上

開発現場へのインプリケーション

要件の多くは「設計段階での意思決定」を前提としています。特に、デフォルト認証情報の禁止・セキュアストレージおよびセキュアブートは、ハードウェア選定・ブートローダー設計・ファームウェアアーキテクチャに深く関わります。リリース直前の後付け対応は困難なため、要件を設計レビューの評価軸に組み込むことが現実的な対処策となります。

4. 制度スケジュールと市場動向

当初「参考情報の可視化」という位置づけで出発したJC-STARは、現在では「市場参入や補助金・政府調達の必須条件」へと急速に重要性が増しています。製造業にとって、制度対応は任意の取り組みではなくなりつつあります。

1. 制度スケジュール(ロードマップ)

時期実施内容・予定
2024年8月経済産業省が「IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度構築方針」を公表
2025年3月共通の最低限要件をカバーする「★1(レベル1)」の運用開始(方式:自己適合宣言)
2026年6月〜IPAより「通信機器★3」「ネットワークカメラ★3」のセキュリティ・適合要件が公開(上位レベルの具体化)
2027年4月エネルギー・電力分野での要件化(義務化の開始)。新規に系統接続する太陽光発電や蓄電池の制御システム(PCSなど)に導入予定
2027年10月低圧系統設備(50kW未満の小規模設備)の経過措置が終了。以降の契約申し込みはJC-STAR適合製品でなければ原則接続不可に

2. 市場動向:主要な3つのトレンド

① インフラ・エネルギー市場での「実質的な強制化」

蓄電池や太陽光発電の分野において、JC-STARの取得はビジネスの死活問題となっています。
【グリッドコード(系統連系技術要件)への組み込み】2027年以降、適合ラベルのない機器は電力インフラ(系統)への新規接続が認められなくなります。
【脱炭素オークション・補助金条件】長期脱炭素電源オークションへの応札や、政府・自治体の蓄電池導入補助金を受けるための前提条件(提出義務)として組み込まれ始めています。これにより、メーカー各社は急ピッチで「★1」および「★2」への適合開発を進めています。

② 政府調達における基準化

政府機関や関連団体の「政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための基準群」において、調達機器にJC-STAR(★1以上)の取得を要件化する動きが順次進んでいます。今後は製品カテゴリの拡大に伴い、★2や★3以上の取得へと要件が段階的に引き上げられる見通しです。

③ 国際相互承認の進展(グローバル展開の効率化)

日本国内でのJC-STAR取得が、海外への輸出・展開時のコスト削減に直結し始めています。【シンガポール(Cybersecurity Labelling SchemeCLS制度)】2026年3月に相互承認の覚書が締結され、手続きの簡素化がスタートしています。 【欧米諸国との交渉】英国(PSTI法)との連携や、米国(U.S. Cyber Trust Mark)、欧州(サイバーレジリエンス法:CRA)との相互承認に向けた対話も進行中です。

3. メーカー・事業者への影響

製品分野対応の方向性
消費者向け機器
(スマートホーム等)
コストと市場認知度のバランスを考慮し、自己適合宣言で完結する「★2」の取得を推奨・目指す動きが主流です。
産業用 IoT・
インフラ機器
政府調達や重要インフラへの導入を見据え、第三者評価機関による厳格な評価が必要な「★3」「★4」への対応準備を進める企業が増えています。
エネルギー機器
(PCS・蓄電池等)
2027年4月の義務化に向け、★1以上の取得が急務です。補助金・オークション参加資格の観点からも最優先事項となっています。

5. 技術検証:脆弱性検証の手法―ファジングはなぜ有効か

JC-STARの★3・★4では独立した第三者評価機関による評価報告書が求められます。現時点で★3の基準案が公開されている対象分野は「通信機器」と「ネットワークカメラ」であり、これらの製品を扱う製造業にとってファジングを中心とした技術検証の重要性は特に高いです。★1においても、自己適合宣言の根拠として検証エビデンスを整備しておくことは、疑義が生じた際のIPAサーベイランス対応として実務的な意義を持ちます。

1. ファジングとは何か

ファジングとは、テスト対象のインターフェース(通信プロトコル・API・ファイル入力など)に対して、意図的に異常値・境界値・ランダムデータを大量に入力し、クラッシュ・ハング・予期しない動作を引き起こす脆弱性を自動的に探索する手法です。人手によるペネトレーションテストと比較して「広大な入力空間を機械的に網羅できる」点が最大の特徴であり、組込み機器の通信プロトコル実装の堅牢性検証に特に有効です。

2. JC-STAR審査とファジングの接点

第三者評価機関(★3・★4)は、製品のセキュリティ検証の「プロセス」と「エビデンス」の両方を評価します。ファジングテストを実施し発見された問題への対処記録を残しておくことは、審査の透明性を高め評価機関の信頼を得る上で実質的な意義を持ちます。特に「攻撃面の最小化」および「ソフトウェア更新の完全性」に関する要件については、実装の妥当性をファジング結果で補強できる場面が多いです。

ファジングを「認証取得のための一時的な活動」ではなく、「継続的な品質保証プロセス」として開発フローに組み込む企業が、中長期的に有利な立場に立ちます。★1・★2の自己適合宣言においても、検証の客観性を担保する手段としてファジングの実施・記録は有効です。

3. 組込み機器向けファジングの留意点

組込み機器向けファジングには、PCソフトウェア向けのツールとは異なる考慮が必要となります。ターゲット環境へのインストルメンテーション可否、通信プロトコルのカスタム対応、ファームウェアの実機環境依存性などが選定の主要軸となります。コードレビュー・静的解析(SAST)・手動ペネトレーションテストと組み合わせることで、包括的な検証として評価機関への説得力が高まります。

6. 実務対応:製造業が今すぐ着手すべき事項

制度対応を後回しにするほど、認証取得・製品改修のコストは増大します。以下は、開発チームが現時点で着手できる実務的なアクションです。

  • 取得レベルの目標設定:
    自社製品の用途・販売先を踏まえ、どのレベル(★1〜★4)を目指すかを確定してください。★1は2025年3月に運用開始済みで即時対応が可能です。通信機器・ネットワークカメラで政府機関向けを想定する場合は★3(基準案公開済)への対応を早期に検討することをお勧めします。
  • 対象製品の棚卸し:
    JC-STAR評価対象になり得る機器を洗い出し優先順位を付けてください。既存製品と新規開発品で対応戦略を分けることが重要です。
  • 要件ギャップ分析:
    現在の製品仕様・開発プロセスと、JC-STAR技術要件の差異を項目ごとに評価してください。特にデフォルト認証・更新機能・脆弱性開示窓口の有無を確認することが出発点となります。
  • SBOMの整備:
    使用するOSSライブラリ・サードパーティコンポーネントのバージョン管理を体系化してください。既知脆弱性(CVE)の継続的なモニタリング体制を整えることも重要です。
  • 脆弱性検証の早期組み込み:
    開発フェーズにファジング・静的解析・ペネトレーションテストを段階的に組み込んでください。CI/CDパイプラインへの統合を目指すことで、継続的な品質保証が実現します。
  • 製品ライフサイクル計画の見直し:
    セキュリティアップデートの提供期間・終了宣言のタイミングを製品企画段階で明示してください。

7. まとめ セキュリティ検証を「設計の一部」として捉える

JC-STARは、IoT機器のセキュリティを共通の物差しで可視化・標準化するための国内制度です。★1は2025年3月に運用開始、★3(通信機器・ネットワークカメラ)は2026年2月に基準案が公開されるなど、制度は急速に具体化しています。★2は現在策定中であり、制度全体の整備が進む中で、対応の遅れは事業機会の損失に直結しかねません。

特に政府調達を視野に入れる製造業にとって、★3への対応は喫緊の課題です。通信機器・ネットワークカメラを製造・販売する企業は、公開された基準案を精査し、第三者評価機関との協議を含めた対応計画を早期に策定することが求められます。ファジングをはじめとする脆弱性検証手法は、★3の第三者評価においても★1の自己適合宣言においても、検証エビデンスの質を高める技術基盤として機能します。

IoT機器のセキュリティ検証をお考えの方へ

JC-STAR対応の第一歩として、脆弱性検証の専門ツール・サービスの活用が有効です。

Penzzer IoT機器向けファジングツール

組込み機器・通信プロトコルに特化したファジングツールです。各種プロトコルに対応し、実機環境でのクラッシュ・異常動作を自動検出します。JC-STAR審査(特に★3・★4の第三者評価)に向けた検証エビデンスの取得にも活用できます。★1・★2の自己適合宣言においても、IPAサーベイランス対応として実施記録の整備に貢献します。

Penzzer 製品ページ

ユビキタスAI IoT機器セキュリティ検証サービス

ユビキタスAIは、IoT機器・組込みシステムのセキュリティ検証を包括的に支援するサービスを提供しています。Penzzerを用いたファジングテストの実施から脆弱性レポートの作成、JC-STAR審査(★1〜★4全レベル)に向けたエビデンス整備まで、専門エンジニアがプロジェクトの要件に応じて対応します。自己適合宣言の準備支援から第三者評価機関対応まで、製品開発フェーズに応じた柔軟なサポートが可能です。

IoT機器セキュリティ検証サービス 詳細ページ

情報出典・免責:本コラムは、経済産業省「IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度構築方針 」(2024年8月23日公表)、「分散型電源のサイバーセキュリティ対策について 」(2026年2月12日公表)を主な情報源として整理した参考情報です。制度の詳細・最新情報はIPA および経済産業省の公式文書を参照してください。制度改訂により内容が変更される場合があります。

このコラムの著者
株式会社ユビキタスAI エンベッデッド第3事業部 永井玲奈

株式会社ユビキタスAI

エンベデッド第3事業部

永井 玲奈​(ながい れな)

長年、組込みソフトウェアの営業・製品マーケティングに携わる。現在はユビキタスAIでIoT機器セキュリティ検証サービス事業の営業およびプロダクトマーケティングを担当。医療機器、車載製品、民生品などあらゆる機器を製造する大手製品ベンダーの多岐に渡るセキュリティ課題解決に取り組む。

まずはお気軽にご相談ください!

「自社製品のJC-STAR対応状況を確認したい」「★1から始めてよいか判断できない」「ファジングテストを試してみたい」─そのような段階からでも、ユビキタスAIにご相談いただけます。製品の種類・開発フェーズ・目標レベルを踏まえた具体的なご提案をいたします。


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